第二十七話:レントゲンを取り寄せる女…

噛み合わせによる違和感も大分なくなり、4日後の再度のチェックの前に、私は「あること」を確かめたいと思っていた。

歯周病の診断と処置内容

歯周病の再生療法を受けるにあたり、「何を基準に処置を決めるのか」について話し合ったことがある。

ひとつめは、歯周ポケットの数値。
わたしは、一番深い所では7mm、そのほかも全て5mm以上だった。

ふたつめに、出血。
歯周ポケットの検査の際に複数の箇所から出血があった。

みっつめに、細菌検査。
PG菌7.8パーセントが検出された。

よっつめに、見た目の感覚。
これは、先生のこれまでの経験値によるもので、将来こうなりそうだな〜とか、そういう所見。

そしてそれらが全部クリア(?)していて、かつ、歯周外科以外の方法を既に試しており(SRP、歯周内科など)、歯茎は引き締まった状態で、「目に見える範囲での処置」は全て済んでいた。
だから、「次はやるとしたら再生療法」というのが、長い話し合いの中で下された結論だった。

ただ、じつは再生療法(歯周外科)で意外と失うものが多かったと知った今、もうひとつ、「確かめたいポイント」があった。

それは、「病気の進行スピード」だ。

この進行スピードに関しては、私は3年前に受けた歯周内科の治療で、「魔法のように進行が止まった」と感じていた。
その話はもちろんしていたけれど、この話を信用してくれる人は悲しいことに今まででほとんどいない。
いろいろな考え方があり、薬で治す歯周内科に否定的な意見もたくさんある。
でも、私は私の口の中が感じている感覚を信じたかった。

そこで私は、「裏付け」となるデータを集めることにした。

ズバリ、「過去のレントゲン写真」だった。
骨がどんなスピードで吸収されているのか、私は口の中の感覚が覚えているけれど、その証拠が欲しい…。

レントゲン写真を集める

私は、もう既に通わなくなっていた歯科に電話をした。
2008年、私がこの街に引っ越してきてから最初に通った歯科だ。
もう通わなくなっているから、電話をするのはとても気が引けた。
そして、過去のレントゲン写真が欲しい、なんて…。
レントゲン等のデータを渡すか否かはその歯科によって考え方が異なるし、なにせ9年前のデータが残っているかも分からなかった。

私は電話でまず事情を説明した。
この事情の説明が長い…。
「以前2008年~2013年ころにこちらでお世話になっており、その後歯周病がよくならないので、2014年に歯周内内科専門の歯科へ行き、そこで改善されたけれど、既に失った骨は元には戻らず別の歯科で再生療法をしている最中で、他の部位の再生療法を積極的に進めるかどうかの判断を、これまでのレントゲンで進行スピードを見て判断材料のひとつにしたいので、過去のレントゲン写真をいただけませんか?」
という内容を、なるべくコンパクトに話した。

レントゲン写真は、たんなる検査結果なので、渡してくれる歯科は多い気がする。
(カルテの内容を開示して欲しい、とかではないので)

幸い、2008年と2011年の2枚のレントゲン写真が残っていた。
空のUSBを持ってくればデータをもらえるそうで、私はすぐにデータを調達した。

2014年の歯周内科の際のレントゲンは、既にこの治療を始めるの今年の1月に、歯周内科の歯科にお願いをして頂いていた。(そのときもやっぱり気がひけたけど、すぐにデータをくれた)
でも、2014年と2017年のレントゲンでは、ほとんど変化が見られなかったため、私は、2014年より前のデータが欲しかった。

私は、2008年、2011年、2014年、2017年、と、ちょうど3年ごとのデータを揃えることに成功した…!

(執念…。めんどくさい患者。)

そこで私は、2008年から現在までの9年の歴史を振り返ることにした。

レントゲンで見る私の歯の歴史

治療中にモニターでパッと見せられるレントゲン写真を、頭の中で覚えていられるわけがない。
だから、こうして「所有しておく」というのは、価値があると感じた。

(見所ポイントは、右下(画像の向かって左)の6番と7番(端から2つめと3つめの歯)の歯の分岐部の空洞と、下顎前歯1番の移動)

200809

201111

201409

201704



ここに並べた4枚のパノラマレントゲン写真は、「私が想像していた通り」の進行具合だった。
つまり、私が「覚えている感覚」(痛みなど)と合致した、骨の吸収具合だった。

2008年から2014年の6年間の骨の吸収スピードは驚くべき早さだった。
30〜36歳頃のことだ。
(もっと以前から歯周病ではあったけど、さすがにこれ以前のレントゲンは集められなかった)

私は、レントゲン写真を眺めながら、当時どれだけ痛かったか、どんな思いで痛みに耐えていたのか…、走馬灯のように蘇ってきた。

(泣くシーン!!!)

今から9年前…、2008年に、私はマンションを買い、会社を辞めて、新しい街へ引っ越した。
この2008年に、思いつきで私は会社を作った。
その直後妊娠が発覚し、私は未婚で子どもを2009年に出産した。
2011年に、事業拡大のため実店舗をオープンした。
「子育て」と「仕事」と「歯周病の痛み」、すべてを私はひとりで背負っていた。

なかでも、「歯周病の痛み」が、一番大変だった。

「子育て」も「仕事」も、それに比べればなんてことなかった。
そりゃ大変なこともあるけど、いいこともたくさんあるし、やりがいもある。結果も出せる。

でも歯周病の痛みは、四六時中痛みの連続で、いいことなんてひとつもない。
治ることもない。進行を止めておくことしかできない。

そんな「回復の見込みのない症状」と共に過ごした6年(実際にはそれ以前からもっと長く)、私は、多くの骨を失っていた。

ちなみに、子どもが生まれたり起業したりで忙しいからといって歯医者をサボったことはない。
出産後退院して、私が一番最初に行った場所が歯医者だ。
出生届を区役所に出すより前に、私は歯医者に行った。
出産前、切迫早産で2ヶ月間入院したままの出産で、私は入院中ずっと歯のことばかり考えていた。
「歯医者に行かなければならない…」
私は、何よりも先に歯医者に行った。
それくらい歯が痛かった。
陣痛の痛みよりも、会陰切開の傷の痛みよりも、歯が痛かった。

そんな歯周病に惑わされ続けている最中、私に希望を与えてくれたのが、2014年の歯周内科の治療だった。
すべての人に有効ではないかもしれない、今後の予後も分からないとしても、私は2014年から、「歯茎が痛くない人生」を手に入れ、とっても幸せだったのだ。
だから、特別な思い入れがある治療だった。

レントゲンをつきつける女…

私は、用意していたレントゲンをプリントアウトし、先生に見てもらうことにした。

私:「先生、ちょっと総合的なお話をしたいのですが…、過去のレントゲン写真をもらってきたので、見てもらえますか?」

私が勝手に資料を用意してプレゼン(ではない…)するのは何度目だろうか。

私:「2008年、20011年、2014年の写真があります。そこで、この2008〜2014の6年間の進行スピードと、2014年から現在の進行スピードを比べてみて欲しいんです。

先生は、3枚のレントゲンを見て驚いていた。(ように思う)

先生:「たしかに、この6年間の進行スピードには驚くものがあります…。

私:「2014年と2017年現在の今のレントゲンでは、骨の吸収が進行しているのがレントゲンから分かりますか?

過去のレントゲンは、パノラマレントゲンしかなかったので、細かな部分は見えない。

先生:「その判断は、細かなレントゲンで見ていかないと分からない部分もあるのですが…、明らかに進んでいると明言できる部分はありません。

素人の私にも、その差は歴然だった。

私:「2014年に受けた歯周内科の治療で、その6年に急速に進行させていた歯周病の原因のひとつを取り除けた気がしているんです。だから、この先も、この6年のような進行スピードでは進まないような気がしているんです。つまり、歯周ポケット5mmのままの人生ではいけないのですか?ということです。」

私は、他の箇所の再生療法を進めるにあたり、迷っていた。

先生:「歯周ポケットが5mm以上になると、歯を失う確立が高いのは論文でも明らかにされていることで、ルンルンさんの歯周病の状態も現在コントロールしているといいつつ歯石が残っている箇所もだいぶんあり、フルマウスの治療をする過程での再生療法が有効だと思いました。」

私:「はい、フルマウスセラミックにしその過程で再生療法をする案と、再生療法のみする案が残ったとき、私はすべての歯を削るのは失うものが多すぎて決断できなかった。でも、再生療法だけなら…と思ったのは、失うものがないと思ったからです。歯茎の退縮はあると思っていましたが、0.7mmと聞いていたので、その範囲でしか考えていなかったんです。」

先生は、うなずきながら、私の言いたいことが分かっているようだった。

私:「骨があの状態なのに、歯が動揺していなかったのは、歯茎の引き締まりで、歯茎って歯を支えてくれる重要な役割じゃなかったのかな…と、今思うのです。その歯茎がなくなって大丈夫なのかな、と。」

先生:「ルンルンさんの言いたいことは分かります。仰るように歯茎の引き締まりの力は重要です。ただ、歯周ポケットが5mmの状態の歯茎で支えている、というのは、歯を歯茎でバチっと押さえているわけじゃないんですよね。すき間が空いているということなので。」

私:「なるほど。歯をバチっと押さえているわけではなく、少しやわらかなふわふわしたもので支えている…ということですね。」

先生:「確かに、歯茎の退縮は、想像以上で誤算でした。失うものがないはずと思ったのが、失うことになってしまったということですよね。」

私:「はい。だから、他の箇所についてどうすべきなのかということを考えてるんです。ほかの箇所も同じ状態になったら…、今は片側で噛めていますが、もう片側もなったらどうしよう、と。」

先生:「正直、ルンルンさんの治療は、これまで行った再生療法の中でも一番大変でした。時間もかかりました。

4時間以上のオペを思い出した。

私:「時間がかかったのは掃除が大変だったからですか?」

先生:「それもありますし、この分岐部には肉芽という悪い部分があってそれを取り除いて綺麗にしました。そして歯茎を元に戻して縫合しました。確かにここまでの歯茎の退縮は誤算だったと思えるけれど、オペ自体は、今思い返しても、あぁこうしておけばよかったな、と思う部分がいっこもないんですよ。

先生も、この予想外の悪い結果に悔しそうだった。
想定する範囲外のことだったんだな、と思った。

先生:「だから、今の状態でほかの箇所に手をつけても、同じ結果になる可能性があります。

私:「そうですよね。それを覚悟で手をつけるかどうか…。
思うのは、先生はリスクのすべてを私に伝えることができない。そして私はリスクのすべてを理解することができない。あたりまえですよね。私には何の前提知識もありませんから…。

患者さんにどこまで、どんな風に説明するのかというのは、すごく難しい問題だと思った。

そしてその課題に打ち当たっている。

どんなゴールを目指して、どんな風に時間を使っていくのか…、というのを、私たちはずっと迷走していた。

先生:「いまの状態で、すぐに次の再生療法を進めるのは…、得策ではないのかもしれません…。フルマウスの治療も、たとえば10年後とか、ほかの箇所が悪くなってブリッジになるときに考えるとか…でもいいのかもしれません。ただ、10年後にインプラントするには今の噛み合わせだと厳しいかな、と思って先にフルマウスで噛み合わせを完璧にしておくと可能性が広がるな、と思ったんですけどね。」

私:「でも、抜歯になるとも限らないですもんね。このままの歯周ポケットでずっと持つかもしれない。
今すべてが中途半端な状態で、前歯が仮歯から進まないですよね。もしフルマウスセラミックの選択肢を捨ててもいいなら、前歯と奥歯の問題は切り離して考えた方がいいんですかね。」

先生:「そうかもしれません。そうなると前歯は今の状態がゴールになってしまうけれど、セラミックになるとまたもっと綺麗になりますし、以前の状態よりはずっといいので。」

長い時間ちょっとバトル気味(というほどでもないけど)になりつつ、そう終着した。
私たちは、私の歯の未来をそれぞれに予測している。

この日の話の中で、平行線のままだったこともあったし、歩みよったこともあった。

この日も、ほぼお話だけで2時間半が経過していた。
話し初めたとき…、先生が、椅子に深く腰を下ろしたとき、私は「あぁ、またこうなっちゃうな」って思ってた。

私のずるさと孤独

私は、今回の再生療法をしたことを後悔しているわけではないし、予想外の出来事を責めているわけでもなかった。
誰のせいでもない。
でも、私の態度は、そうは見えない態度だったんだろうと思う。

私は、ずるい。
私は、穏やかな性格だし物言いだけれど、それでも、淡々と説明する中での裏付けを先に取っておいて、結果、自分の欲しい答えを言わせる…というようなことをする。
なんてずるいんだろう。
私だったら、誰かにそういうことされたらやだな、って思う。
どうしてもっと素直になれないんだろう。

私は、痛みのあった6年(以上)の歴史を、誰かに分かって欲しくて、甘えたかった。
ただそのためだけに、私はレントゲンを取り寄せた。

でも私は、誰にも甘えられない。
だから、裏付けがないと、なにもかもに自信がなくて、立っていることすらできない。

私はずるくて弱い。

いつだって、全ての決定権は自分自身にあり、そういう環境に身をおくことで私は自分が生きやすい人生を作ってきた。
その「生きやすい人生」は、私を「孤独」にした。
ラクになればなる分、どんどん孤独になっていく。

私は、歯の治療を通して、これから学ぶべきことをたくさん知った。
来世では、猫のような女を目指そう。
レントゲン(裏付け)を取り寄せる女ではなく…

なにを話せばいいのか分からなくなってきた話の終盤…、お互いにズレてる会話の中、そんなことをぼんやりと思っていた。

(先生はなぜかインプラントの話をしていた。今最も興味のあることなんだろうなと思える。目が輝いていたし。インプラントは私は知識がないので話が頭に入っていなかった…。私は私で、歯とは関係ない「人生の孤独」について考えていた。)

話し始めて2時間半が経過したとき、私たちは我に返り、その日にやるべきことをやった。
仮歯を外して掃除したのでそれをつけるのと、写真撮影。

オペ中にも撮った写真はこれまで一度も見せてもらったことがないけれど(こちらからも申し出なかった)、どうやら先生がレポートをまとめているっぽかった。
とりあえずそれを楽しみにしよう。

【セラミック矯正のその日の治療費】

診察料 1620円
合計 1620円

【セラミック矯正のその日のやったこと】

・噛み合わせの調整
・お話

【セラミック矯正の次回の治療でやること】

・噛み合わせの調整?

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コメント

  1. より:

    予後がショックな状況、人ごととは思えません(T_T)
    再生療法後の歯槽骨の量、歯周ポケットとPG菌の値が少しでも良くなる事を祈っています(-人-)
    7番は、歯肉移植ができると良いですね。。。
    ルンルンさん、応援してます(T-T)/

    1. ルンルン より:

      魚さん
      応援ありがとうございます〜☆
      まだオペしてから1ヶ月経っていないので、ちょっと様子を見ます(ノ_・。)
      たしか歯周ポケットの検査は半年後で、その頃に2mmくらいになってるのを期待します!(物理的にそうなるはず…!)
      魚さんのように、前歯の見える箇所だったことを思うと、ほんとに恐怖だったろうな…と想像します…(T_T)

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