「欠歯生活」から学ぶ、より味わい深い人生

「だってばかみたいなんだよつくづく。
周囲の理解など得られないし、金は羽が生えたように飛んでいくし、欠歯がなくなったところで誰からもホメてもらえないどころか変化にも気づいてもらえない。」

これは、著書の北尾トロさんが、発売前に本の紹介のためにブログに書いていた一文だ。

私はこの一文を読んだときに、涙が出そうになるくらいにアツい思いがこみ上げてきた。

これまで、どんな十五年(治療をはじめてから今まで)を過ごしてきたのか。
私はその経緯を知らないけれど、それがどんなものであるか、勝手に想像したし、誰の理解も得られない苦しみが伝わってくるような一文だった。

「だってばかみたいなんだよ」
って、私もそんな風に思いながら歯の治療をしている。

「あぁ、なんでこんなことになってるんだろ…」
自分で選んだ治療ですら、これからの道のりを思うと、遠い目になってしまう。
(もちろん後悔しているわけではないけれど)

虫歯リスクと歯周病リスク

さて、この著書の北尾トロさんは、典型的な「虫歯リスクの高いタイプ」であった。
子どもの頃から虫歯が絶えず、しかも歯医者嫌い。
虫歯の痛みの描写は、「えー!こんなに虫歯って痛いものなの?!」と思うほど。

私は、つい最近はじめて虫歯になるまで、虫歯が出来なかったし、その虫歯すら自分で痛みを全く感じなかった。
だから、この痛みの描写は、「まるで信じられない」。

逆に私は、典型的な「歯周病リスクの高いタイプ」だ。
子どもの頃から学校検診でも歯肉炎と言われ、20代で歯周病と診断された。
歯周病は、痛みがなく進行すると言われているけれど、それこそ私は信じられない。

だって歯周病ってすごく痛いんだもん!
寝不足や風邪をひくと、歯茎が腫れ上がり、膿みが溜まる。
全部の歯が浮いたような感じになり、モノが噛めなかった。
噛むと歯茎の奥から激痛が走る。だから、歯を使わずに、上あごで食べ物をすり潰して飲み込むようになる。
もちろん、冷たいものも熱いものも飲めない。常に「生温」のモノしか口にできない。
だからいまいち「歯周病が痛みなく進行」というのがピンとこない。

北尾トロさんは、現在59歳。歯周病ではないそうだ。
素晴らしいっ!

このさんざんな痛みに耐える「欠歯生活」を読んでも、わたしはその年齢で歯周病でないことが羨ましいと思ってしまう。

そんな風に、いわるゆ「虫歯リスク」と「歯周病リスク」は、口内の菌のバランスによるもので全く違うものだ。
それでも、私たちは、「歯の(歯茎)弱い人」として、同志に違いない。

痛みのプロ

歯医者嫌いの北尾さんは、とにかく歯医者に行くことが億劫で仕方がない。
歯医者に行くのが趣味な私としては、それも「まるで信じられない」。
あんな楽しいところなのに…!
入り口の清潔感とちょっぴり豪華な感じ、病院のにおい、数々の精密機器、座り心地のいい椅子、自然と水が出てくる魅惑の機械…と、すべてが「ワクワク」するものなのだけれど、歯科嫌いの人にとってはこの全てが「嫌なもの」なのだ。

ただ、歯の弱い私たちに通じる部分は、「痛みのプロ」であること。
この本で思いっきり笑ったエピソードで、なんと「自力で治療」をしてしまうシーンがある。
これはあまりにおかしくて笑ったけれど、その行動が私はよく分かる。

歯が悪い人は、その痛みが「どういう種類のものか」「今後どうなるか」の経験が豊富なんで、つい勝手に「自分で判断」してしまうことがある。
これは私自身にもいえることで、
・この歯茎の痛みはブラッシングで悪い血を出せば収まりそうだな
・これはあと数日で膿みになるな
・この膿みは切開しないと厳しいな
とか、痛みと見た目でたいがい分かるようになっていた。

そしてなんと私も、「自力で治療」をしたことがある 笑

これは歯医者さんには絶対に言えないことで、やっちゃイケないことなんだけれど、あまりにも夜中に歯茎の膿みが痛く、自分で歯茎を切開して膿みを出したことがある。
膿みを出せば痛みが止まることが分かっていたので、ついやってしまった。
そして、痛みは一瞬で収まった。

だから、この「自力で歯を治療」の気持ちも、すごくよくわかるのだった。

痛みのプロになることは、歯医者さんを遠のかせてしまう一因だ。

(もちろん、とりあえずは痛みは収まるけど、やっぱり歯医者さんには行かなくてはならない。結局先延ばしにして大変なことになりましたよ、というお話なので。)

入れ歯への異様な抵抗感

そして、この本からは、「入れ歯への異様な抵抗感」がギューーーっと凝縮されている。
入れ歯にしたくないからインプラントにした。そしてそのインプラントが外れた、というところからお話はスタートする。

最初のインプラントを決意するにあたり、いろんな思いがあったに違いない。

私は、インプラントを考えたことはない。
若い頃から歯周病だったので…、つまり、歯周病とは「骨がなくなる病気」なので、骨にボルトを入れるインプラントは選択肢になかった。
「あなたは将来インプラントは無理ですよ」「いずれは入れ歯ですよ」と、歯医者さんに言われて育った。
だから、入れ歯の覚悟は出来ていたというか、いつかそうなるものだと思っていた。
年々減って行く骨に穴を開けるなんて、その方が怖すぎる。

今では、骨を再生する治療法などもあり、私が将来歯を失いインプラントにすることも可能なのかもしれないけれど、「歯茎が弱い人=将来入れ歯」と思っていた。

私が歯周内科を受けた歯科は、義歯の専門でもあるので、「将来はここにお世話になろーっと」と単純に思っていた。

ただ、私は入れ歯を入れた経験があるわけではないので、北尾さんのいう「違和感」(かみ心地など)は、分からない。
やっぱり、違和感があるのかもしれない。
まぁ実際にそのときになったら、その「異様な抵抗感」をはじめて知ることになるのかもしれない。

これも、それぞれの価値観で、「入れ歯がバレるのがイヤ!」なのは、私が「歯の根が見えるのが嫌!」というのは同等なのかもしれない。

歯周病になると、歯茎がなくなっていく。
ピンク色のあの歯肉がどんどん減っていき、歯の根が見えるようになる。
この「見た目」の方が、私はがぜん嫌だった。

歯周病患者特有の、虫歯患者特有の経験が、こういう価値観を作っていくのだと思う。

いずれにせよ健康なひとにわ分かるまい

そしてそれらのコンプレックスは、「本人にしか分からない」。
私は歯のことを積極的に身の回りの人に話して笑い(というか、歯医者へ行くことの啓蒙?)をしているけれど、思うのは、「意外と私の歯のことを見ていない」ということ。

本人はすごく気にしていても、意外と誰も見ていないんだな〜これが。
私の歯の変化なんて気づいていない。
それなりのお金をかけてるっていうのに!

でも、私は歯の悪い人だから、よく分かる。

28歯の歯は、すべて、歯茎、歯を支える骨で繋がってる。
もちろん、歯は身体にすべてに繋がっている。
土台がすごく大事で、基礎工事ができていないと、歯は、次々と共倒れしていく。
このすべてに繋がる「共倒れの恐怖」「次々とおこる数々の不幸」は、「歯の健康な人には分かるまい!」と、思う。

「見た目」と「機能」が揃ってはじめてその不安から解消される。

味わい深い人生への入り口

歯医者が嫌いで、体質的に歯が弱くて、それでさんざんな大変な目にあって、そしてこの「だってばかみたいなんだよ」と思いながら、「欠歯生活」という本が生まれた。

これは、歯医者へ行かなかったことの反省文ではない。

もちろん、反省の気持ち、愚かであることは書かれているけれど、きっとどこかで感じているはずだ。
「自分が貴重な経験を味わっている」ことを。
貴重な経験の中、自分自身の痛みを伴う犠牲の裏にある心の成長(人間力アップ!)としみじみとした味わい深さを。

(より味わい深い人生への入り口を、私もスタートしてしまっている)

歯の弱い人にも、歯の健康な人にも、そのしみじみとした味わい深さを追体験できるおすすめの本だ。

この物語を、「ひとごとじゃない」と思った瞬間から、世界はいっきに広がる。
(そして笑える本でもある)

 

『欠歯生活歯医者嫌いのインプラント放浪記』
北尾トロ


http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163904030

 

私自身の歯科ドラマはまだまだ序盤だ。
これから15年先、どんな未来が待っているのか…?!どうぞお楽しみに…
わたしのめくるめく歯科ドラマをぜひ1話からどうぞ…!→もくじ

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コメント

  1. より:

    本当に、歯の悩みは辛いですよね。
    ウチは両親とも入れ歯なので、自分もなんとなく覚悟しています。
    元が酷いので、年齢的にあと5年自分の歯が持ったら、努力賞かな(^^)

    入れ歯年齢早く来い!って感じです(^_^;)

    1. ルンルン より:

      魚さん
      ほんと、遺伝というか口内の細菌のバランスなんですかねぇ、わたしも親も歯がボロボロでした…
      ところで、魚さんはおいくつですか?わたしは今年40歳になりますが、20代からの歯周病で35歳の時に抜歯宣告されてから、自費の歯科を探すようになって、なんとか今までもってます。
      せっかく骨も増やしたし、はじめて歯を失うそのときまで、最善を尽くしていれば、後悔ない気がします☆
      …ということで、私も昨日再生療法のオペを行いました!
      オペ自体は脳内シュミレーションができていたので問題なかったのですが、術後の顔の腫れが今ひどいです…

  2. より:

    私は今年45になります。
    物心ついた頃から、歯磨きの時に歯茎が痛くて、虫歯も多かったです。
    歯医者さんでは、ため息を付かれるだけで特に何も指摘されず、
    こんなものかな、って思ってました。
    30代後半で、歯茎が下がり始めてからブラッシングを強化していたのに、
    進行が早かったです。
    びっくりして今の歯医者さんに変わってから、自分が歯茎も歯槽骨も
    かなり薄いタイプだと知りました(>_<)
    ルンルンさん、オペお疲れさまでした☆無事終わって安心しました!
    お顔の腫れ、早く引くと良いですね。。。ゆっくり休んで治癒力をUP
    させて下さい(^_^)/

    1. ルンルン より:

      魚さん
      そうだったんですね…(>_<)
      これまで、歯医者さんにかかっても、歯周病の治療って歯石取りとかブラッシングくらいなんですよね。
      30代や40代で重度の歯周病を宣告されるときの絶望感はハンパないですよね…。
      でも、今は積極的なアプローチをしてくださる歯医者さんと出会えてよかったですね!
      たとえ何歳でも、どんなに症状が進んでいても、出会ったとき、気づいたときが「はじめ時」なんだな〜と前向きに思っています(^_^)/
      昨日、術中に3分の1程度まで減ってしまった骨を見たときは、「あぁ、もっと早くにいろいろな情報収集をしていればな」とも思いましたが、やっぱり、気づいたときが私にとってのスタートです☆

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