第十七話:患者としてのリテラシーが問われるとき

この日は、前回(第十六話)唐突にセカンドオピニオンを頼んだ矯正の先生から検査の結果とお話を聞く。

この矯正の先生には、娘がお世話になっていた。

その日のうちに、娘のときと同様に、レントゲンやCT、写真などの検査を前回行っていた。
本日はそのお話…

これまでの経緯説明

私:「えぇと、私の口の中を見てもらえれば分かるかと思うんですが、今こういう状態です。
で、今前歯にセラミックをかぶせる前の段階で、さらに審美的な改善を望んでの28歯フルマウスのセラミックにする、という案があります。
で、そのセラミックをかぶせるまえに、奥歯の骨の再生治療も施す予定です。
矯正の話というのは、もし28歯を仮歯にした後に、それでもまだ前突感を下げたければ矯正して上下顎を後ろに下げる、というところで話が出ています。
で、この最後に矯正、というのを、私は先に持ってきたらどうかな〜とふと、思ったんです。」

【現在の計画】
[1]前歯を仮歯に(今ココ)
[2]咬合高径(前歯を短くしたい)を下げるのと上下顎の前突感を下げるために残りの歯全てを仮歯に
[3]歯周病が進んでいる奥歯の骨の再生治療を施す
[4]仮歯の調整の後さらに上下顎の前突感を下げたければ4番を抜歯して矯正
[5]さらに仮歯の調整
[6]28歯フルマウスセラミックの完成!

(↑これは[1]の今のバージョン)

(↑これは[2]の28歯仮歯のシュミレーション)

…と、この壮大な計画は、骨の再生を経過観察しながら、最終的なセラミックの被せものが入るまでに約2年を要する。(矯正の期間は入れずに)

なんで、いつの間にかこんな壮大な計画になってるんだろう…汗

検査の結果

矯正の先生:「まず、矯正をするにあたり、抜歯か非抜歯かというのが重要なポイントになるのですが、◯◯さんの場合、下顎の前歯の傾斜度と唇の突出度はほぼ適正です。なので、この時点では非抜歯での矯正という判断ですね。
ただ、現時点で前歯が仮歯なので、仮歯にする以前でしたら、抜歯矯正が適当だったかもしれません。

私:「はい、今の時点でも大分改善されているんです。だからいまなんでこんなことになってるのか、自分でも分からないんですけど…苦笑。
考えているうちに理想が高くなってしまったというのもあります。」

矯正の先生:「そういうものですよ。」

私:「今の時点で改善したいポイントは、上下顎の前突感と咬合高径の高さです。歯茎が退縮しているのもあって、過度な長さの前歯です。

矯正の先生:「そうですね。ただ、笑ったときに歯茎が見えるタイプではないので、こういう状態(口腔写真撮影のような)で見えることはないですよね。」

私:「そうなんですけどね…。上下顎の前突感については、4番は抜歯しない方がいいということですね?」

矯正の先生:「はい。4番を抜歯しちゃうと、下がりすぎる可能性があります。前歯の角度が内側に入りすぎちゃうということです。4番は7mmずつあるので、その分下がるということは、かなり下がる、ってことなんです。」

私:「4番抜歯したら、もうそのすき間をどうにか埋めなきゃならないってことですもんね。」

矯正の先生:「はい。抜いたらその分のスペースをどうにかしなきゃならないので、正直、あ、下げすぎたな〜、ということはあります。今はないですけどね。若い頃なんかは。」

私:「なるほど〜。やっぱり下げすぎたな〜と、そうなったら、どうするんですか?

矯正の先生:「その部分には触れないようにします。」

私:「触れない、というのは、『その話に』ということ?
もう戻せないからですね。」

矯正の先生:「はい、やりすぎたかな…と思っても、出来るだけその部分の話をしないようにします。」

やっぱり、どんな仕事にも、「最初」がある。
「経験」が後から積まれていく。

私:「下げすぎた、というのは、具体的にどんな見た目になるんですか?

矯正の先生:「30代以降の方だと、口の上のしわが増える、というところですかね。あとは、ほうれい線が深くなったり…。正直、矯正中に患者さんにそう言われたこともありますよ。でもその部分には触れない。ずいぶん前歯が下がって綺麗になったじゃないですか、というだけ。しわとかほうれい線は、矯正だけの問題でもないので、そう思っていただくしかない。」

私:「正解がないですからね。」

矯正の先生:「そういうのは、経験を積むと、なくなるんです。もちろん、こういうデータも見て、方針を決めます。」

私:「でも、この中間の値だった場合、抜歯でも非抜歯でもどっちでもイケる場合、もしくはほんのちょっと抜歯の方向に傾いている場合、なんかは悩むんじゃないですかね。先生も患者さんも。」

矯正の先生:「はい、だから、よく検討する必要がありますね。歯の問題だけではなく、口周りの筋肉の動かし方とか下の動きとか、そういった面も重要ですし。」

私:「私、矯正に過度な期待をしていたのかもしれません。難しい選択ですね。

矯正の先生:「そこは、難しい問題なんです。あとは、本人がどうしたいか、なんです。気にするかどうか。矯正は、まずは、正しく機能するようにすることなんですが、審美的には、理想的なバランスにどこまでこだわるかどうかなんです。これは本当にその人次第。」

私:「そうですよね。意外と本人の思い込みもありますし。現に、今の私の状態って、正常の範囲内なんですよね。機能的に。」

矯正の先生:「そうです。」

私:「私は、抜歯矯正に過度な期待を持ってました。…というか、それ以外の選択肢は、すごくたくさん考えたので、もう考えるべき選択肢が他になかったというか。最後に、矯正の専門家の先生のお話をうかがって、やっと考えるだけ考えた満足感が得られました。」

矯正の先生:「抜歯するメリットもデメリットもある。骨にもかかるダメージだとか、いろんなことを考えた上で、被せものにする、ってのはよく分かります。それがベストだったのでしょう。
全部の歯を少しづつ小さくして28歯セラミックにする、というのも妥当な案だと思います。4番抜歯すると下がりすぎなので、ちょうどそのくらいがいいと思います。
矯正なら、4番を抜歯せずに、奥歯の側面をちょっとずつ削って(削っても問題ないエナメル質の部分だけ)左右4mmくらいずつのスペースを作って奥に下げるのもいいと思います。」

私:「なるほど。でもそれだと、咬合高径を下げたい、という目的は達成されないんですよね。」

矯正の先生:「そうです。」

私:「圧下という方法はどう思われますか?」

矯正の先生:「圧下もできないことはないですが、骨へのダメージが大きいです。ギュっと骨に押し込むことなので。」

私:「そうですよね。なんだかんだで、私にはそもそも矯正は不向きだったんですかね。」

矯正の先生:「骨の状態がどうなのか、私は専門ではないので詳しくは分かりませんが、骨が吸収された状態だと、やはりリスクはありますね。
だから、被せものにする、という選択だったのでしょうね。」

私が将来、歯を失う可能性

私:「そうですよね。いまこのフルマウスの治療をする上で、見た目以外でメリットとして挙げられているのが、『将来インプラントなるときに有利』ってことも言われています。骨の再生治療も含めてフルマウスセラミック、ってことなので。」

矯正の先生:「それはそうですね。インプラントにするときは多くの方で骨の再生をする場合が多いですよ。」

私:「でもここまで全部やっても、将来インプラントなんて、辛すぎる… .。」

矯正の先生:「うーん、たぶん、◯◯さんのような方は、インプラントになることはないと思いますよ。これだけお手入れが出来ていて、熱心に勉強されている方が抜歯にはなるとは思わないんですよね。歯周病で歯を失うのは、本当に歯に無頓着な方です。このような口腔内の方はちゃんと手入れされているので抜歯になるようには今は見えないですね。奥歯も今以上に骨が吸収されるということがなければ、このままうまくコントロールできると思いますけどね。
インプラントになるとしたら前歯の方が可能性はあると思いますが。」

私:「もう神経ないですからね。」

またしても蘇る第九話
わたしは、第九話での罪悪感が、相当な精神的ダメージだった。

患者としてのリテラシー

私:「先生は、矯正しかされないんですか?」

矯正の先生:「えーと、昔は審美もどっちもやってたんです。もともとアメリカで勉強していて、戻って来て、戻ってからどっちかにしようと思って、今は矯正のみやってます。もちろん、補綴物とか審美もやろうと思えば出来ますけどね。」

私:「でも、考え方として、矯正の先生と、審美の先生では違いますよね。自分の歯で綺麗にならべるか、人口の美しい歯を入れるか。

矯正の先生:「はい、いろいろな考え方があるので、先生によっても、治療法が違います。要は、その先生が得意な方の治療を選ぶので。

私:「歯並びで悩んだときに、最初にどちらの門をたたくか…ってことですね…。」

矯正の先生:「そうなんです。だから、こうして、◯◯さんが、いろいろな可能性を検討してセカンドオピニオンを受ける、ということはすごくいいことだと思いますよ。」
やっぱり『至上主義』って考え方はよくないと思いますね。その分野の専門だからといってその治療を絶対に勧める、というような。

私:「そうですよね。すごく分かります。だから私は、こんなに検討して、セカンドオピニオンまで頼んじゃいました。
セカンドオピニオンがもっと歯科でも一般的になればいいですよね。そういうメニューってあまりないですよね。」

矯正の先生:「そうですね。そこは患者さんのリテラシーですね。自分で検討できる方はいいんですけど、そうじゃなくて、言われたことそのまま鵜呑みにしちゃうのは、危険なんですよ。それは、矯正の世界でもそうです。」

勇気を出してよかった

私は、正直、このセカンドオピニオンを頼むのは、とても勇気のいる行為だった。
勢いで…、子どもの治療のついでで、頼んでみたけれど、矯正の先生にとって、いま私がやっている治療は、全く違うやり方で、理解してもらえない治療なのではないかと思っていた。

でも、この『至上主義はよくない』という話は、とっても共感できるもので、私の姿勢や歯の手入れを褒めてもらって、私はすごく元気になった。
将来こうなったらどうしよう…みたいな不安も、消えた。
私は、決して、「歯に無頓着なタイプ」ではない。断じて、ない!!(歯医者さんに行くのが趣味だもん!)

私は、こうして悩んでいること自体に『Yes!』をもらえた気がして、やっぱり、矯正の先生に見てもらってよかった。

この検査結果を私の先生に見せるべきかどうか…と一瞬迷ったけれど、ちゃんと私が悩んでいるプロセスもちゃんと見せたい、と思った。
だから、この話を正直にしよう。

私の心の中から、矯正という選択肢が、きちんと外れた瞬間だった。
矯正はメリットよりリスクが上回る。
それが答えだった。

【セラミック矯正のその日の治療費】

矯正の検査 32400円

【セラミック矯正のその日のやったこと】

・矯正の先生のお話

【セラミック矯正の次回の治療でやること】

こんどこそ決断

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す