第二十九話:レントゲンに写る「うすぼんやり」の希望

歯周外科をしてからちょうど2ヶ月が経過した診察日。

この日、歯周外科再生療法後初のレントゲンを撮った

失った歯茎のことはもう慣れてしまっていたし、知覚過敏も我慢ができる範囲だし、分岐部の歯磨きにも慣れつつあった。

歯磨きチェック!

私:「歯磨きはやっぱり難しい状況ですけど、慣れつつあります。特に分岐部のところは怖くて歯間ブラシであまり触れなくて…。教わったようにやってはいるんですが、血は出ないです。だからやり足りないんだろうな〜とは思ってます。」

先生は、前回同様に、歯間や分岐部を歯間ブラシで掃除してくれた。

先生:「お掃除に関しては、ほぼ出来ています。ただ分岐部は一番細い歯間ブラシを入れると出血しますね。
6番の分岐部は歯茎で埋まってきてくれているので、無理に分岐部に歯間ブラシを入れない方がいいですね。
7番はもうちょっと深く入るので、分岐部にも歯間ブラシを入れたほうがいい状況です。」


私は、「ほぼ」歯磨きができていることには安心した。

だってあれだけ時間をかけてやってるんだもん…!(第二十八話:分岐部病変との戦いスタート)これで成果がなかったら悲しすぎる。

私:「分岐部は、これまで怖くてあまり触れなかったので、もう少し奥まで入れてみます。この奥は壁になっているんでしょうか?」

先生:「壁にはなっていないです。貫通させようと思えば貫通する状態です。裏側にも分岐部の穴が見えるので、両側から歯間ブラシを入れてください。
貫通はしないですが、汚れが奥に入ってしまうということはありませんよ。
歯間ブラシの「ブラシ部分」にプラークが引っかかってついてくるということなので、貫通させる必要もないですし、たんに「出し入れ」をしてください。」

 

分岐部に通した歯間ブラシの先は、真っ赤に出血していた。

(なるほど…、こうすればいいのか)

私は、新しい技を身につけた気分だった。

初のレントゲン

そして、待ちに待った?初のレントゲンを撮った。

この右下部分。問題の6番と7番。

今日撮ったレントゲンには、6番と7番の分岐部の間に、ぼんや〜〜〜りと(7番はかなり薄ぼんやり)、薄い影が写っていた。

(赤線が「期待できそうな将来の骨」のライン。つまり7番は救えなくとも6番は救える可能性がある。)

先生:「6番の分岐部のこのぼんやりした影は、まだ生体材料がとどまってくれているということです。
7番は、今はうすくぼんやりとしていますが、おそらくここは吸収されちゃうかな…という感じです。
でも、6番は、このままうまくいけば、骨になってくれる可能性があります。

なんだか、久々に「明るい話題」だった。
先生の口調が、「手応えを感じている」感じだった。

 

私:「このぼんやりとしているところは、まだ自分の骨にはなっていないということですね?」

先生:「はい、これが骨になるかどうかは、2年くらいかけて見ていきます。」

この「ぼんやり」が、まだ自分の骨になったわけではないけれど、それでも私は久々に明るい話題にウキウキしていた。

 

先生:「つまり、レントゲンだけで見ると…、骨の状態だけでいうと、医学的には、この再生療法は『やってよかった』と言えると思います
その分、見た目が歯茎の退縮で悪くなったり、知覚過敏が出たり、歯磨きが大変になったり…というご本人の感覚でよかったかというと、それは天秤にかける部分になるのですが、このまま骨になってくれれば、将来的に歯を失う可能性が下がります。」

先生の言うように、見た目(歯茎)、知覚過敏、歯磨きの大変さというデメリットはあるものの、『やってよかった』という言葉が聞け、先生が満足そうだったので、私はとても嬉しかった。

これまで、「失敗」とか「やらない方がよかった」という直接的な言葉はないものの、なんとなくそういうムードが漂っていたので、こうして小さくでも、「結果」が出たことに、私は明るい気持ちに急変していた。

(先生が嬉しそう。だから私は嬉しい。)

このレントゲンに写る「うすぼんやりの影」は、私の未来を明るく照らしてくれた。

 

先生:「あとはメンテナンスをして、これ以上悪くならないようにして、分岐部とかどうしても難しい部分は定期的にクリーニングをして…、今の状態を見ると、6番と7番はすぐに悪くなる予感はしないです。」

私:「で、ほかの部分はどうしたらいいですか?右下以外の他の箇所です。『やってよかった』なら、他の箇所も再生療法をやったほうがいいのでは…?
仮に、全部歯周外科したとして、歯茎が今の右下のような状態になったとして、そのうえで、もしP.G.菌が0パーセントになったとしたら、それはそれでいい結果、という考え方はどうですかね。」

私は、何か「数値化」できるものを目標にしたい気持ちがあった。
これまで、感覚的なものでしか結果が見えなかったから、私はやってよかったのかどうかが分かないモヤモヤがあった。
だから、「P.G.菌0パーセント」という、目標を持ってみるのはどうか?と考えたのだった。

先生:「うーーん、そうですよね…。そうなれば僕もそれはいいと思います。ただ、上は歯の形状も違いますし、歯の根も3本なんです。そうなると、より難しい状況で、歯茎の状態もこの右下と同じようになる可能性を考えると、今のままでいいのかな…と。
根が3本になると、見えていても届かなくて歯石がとれないといこともあります。そうなると泣く泣くそのまま歯茎を閉じるということになるんです。
どうしても…というのなら、ほんの少しだけ切って…という風にやりますが…。」

『ほんの少しだけ切って』なら、やらない方がいいのかな、と思った。
歯周病の敵は歯周ポケット底にある歯石だ。(以前、そう先生が明言していた)
(第十四話:真実が明かされるとき…、見えない歯周病の敵と戦うこと)
その敵にアプローチしないなら、果たして戦う意味があるのだろうか…。

そう思うと、先生が、再生療法の続きをやりたくなさそうなのも分かる気がした。
ともかく、他の箇所の再生療法に「勝算」がないのだと思った。
勝算も自信もない。

私は、(もう前回から思ってはいるけれど)続きの再生療法ななしだな、と思った。

器を広げていくこと

先生:「この6番と7番は噛み合わせに重要な歯で、この2ヶ月間経過を見てきて、『大丈夫そうだな』と感じるんです。
ここまで重度の歯周病だと、再生療法自体チャレンジケースです。
仮に20年後に抜歯になってインプラントになるかもしれません。そのときにはおそらくさらに骨を失っているので、再度GBRをしなければならないかもしれないですけど、それでも、そのときでいいかな、と思います。
論文では、今抜歯して(まだ少しでも骨があるうちに)インプラントにした方が予後がいいという考えもありますが、いまインプラントにしてあと40年持つかというと微妙です。でも20年後に20年持つインプラントを入れることならできると思うんです。
上の歯に関しても、今この時点で歯の寿命を決めて積極的に何かするというよりも、このまま様子を見て、抜歯になったときに長持ちするインプラントを入れればいいのかもしれません。そのときは、もしかしたら、歯茎部分つきのピンク色のインプラントかもしれませんが…。」

私:「人生のうちで、もう一度何か大きく治療をする機会がある、ということですよね。」

それは、私も覚悟のうえだった。
むしろ、20年間問題ないなんて楽観的な考えもなかった。

先生:「もちろん、このままの状態で40年持つかもしれません。できればそうあって欲しい。
ともかく、いまの段階では、出来るところまでこの歯を使って、いよいよダメになったときに再度方針を考える、という治療計画が無難になります。

私は、先生の話に納得していた。
20年後(20年も待たずとして結果は出るかもしれないけれど…)、またこの話を先生としたい。

先生の話を聞きながら、何か先生の中で「考え方」が変わったのではないかと感じていた。

 

これまで、悪くなりそうなところは早くに抜歯してインプラントにするという、「戦略的インプラント」に積極的なイメージがあった。
これは、私の思い込み違いかもしれないけれど、そう感じさせる何かがあった。
それが、今、まったく逆の「できるだけ保存」という考えを聞いて、「何かが変わったのではないか…?」と感じた。

歯科界も論文も関係なく、ただただ「私の歯を見て」と念じたからかもしれない(笑)

 

いろいろな考えがあって治療計画がある。
私たち患者は、いろんな知識を身につけて、自分の考えとマッチした治療方法を選んで幸せになれる。
正しいかどうかは、時間が経たないと分からない。
自分の選択に自信を持てたら、それがどんな結果であっても受け入れられる。
私は、自分が受け止められる結果の範囲で、治療をしたい。
知識が増えれば増えた分だけ、自分が受け止められる許容範囲が増える。
こうして、少しづつ、自分の器を大きくしていきたい。

勝算のない戦いに挑むのはやめた。

前歯のセラミックは…?

先生:「あとは、前歯をいつのタイミングできりかえるかですね。」

私:「もう他の箇所の再生療法をしないなら、早く進めたいです。」

先生:「そうですよね…。あと1ヶ月だけ様子を見させてください。
1ヶ月後、大丈夫そうだったらクリーニングを入れます。」

まだ前歯を積極的に進めないのは何か理由があるのだろうか…?と思ったけれど、奥歯の経過が気になるからなのか、他の選択肢を残しておきたいからなのか…?前歯の話は先延ばしになった。
私も私で、急ぐ必要もなかった。
(気持ち的には、早く前歯を綺麗なセラミックにしたいけれど、どこか選択肢を残していたいという気持ちがまだあった)

私の仮歯生活は、もうすぐ8ヶ月になる。
長い仮歯生活…。
時間はかかっているけれど、そして時間をかけたことによって物理的な何かが変わることはおそらくないけれど(前歯のカタチがよくなるとか)、私は自分と向き合う貴重な時間を過ごしていた。
私の考えも変わったし、先生の考えも変わったかもしれない(←これは分からないけれど)。
この時間はプライスレスだった。

 

ともかく、レントゲンに写る「うすぼんやり」が明るかった。
もしもこのうすぼんやりが将来消失したとしても、それでもわたしは明るく生きていける、と思えた。

 

【セラミック矯正のその日の治療費】

診察料 1620円
合計 1620円

【セラミック矯正のその日のやったこと】

・様子を見る

【セラミック矯正の次回の治療でやること】

・クリーニング?

今回より追加!
【これまでにかけた費用と時間、文字数】
・1058740円
・2700分(45時間)
・129491文字

※ちなみに1時間あたりのコスト23572円。ついこういうのを計算してしまう…
セラミックの歯が入れば1時間あたり5〜6万くらいになる予想。

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