第二十八話:分岐部病変との戦いスタート

歯周外科のオペをしてから一ヶ月以上が過ぎた。
さすがにもう傷口も治っている。
この間に2回、わたしは傷口をみてもらいにいっている。

この数回(傷口の様子を見るターン)は、不毛な恋愛映画みたいだった。
「なんだかな、もう」と思いながら、確信的な話をせずに「様子見」をして過ごす…の繰り返しだった。

そして、新たにスタートしたのが、「分岐部病変」との戦いだった…

スパルタ歯間ブラシレッスン!

先生:「今日は、消毒する必要もないくらい傷は治ってるので、歯磨きをします。
そして、今日から、歯間ブラシで中を掃除していいですよ。」

私:「歯と歯の間の歯間は、歯間ブラシをシュっとやればいいのは分かるんですけど、その歯間の下の凹みをどうしたらいいか分からないです…」

↓私の歯茎の状態はこのような感じ(絵が雑…)

この「5番と6番」や「6番と7番」「7番と8番」の歯間の下は、歯茎がえぐれているように、「凹んで」いる。

この凹みにある汚れをどうやって取り除くのか、分からなかった。

手鏡を持って、歯間ブラシのレッスンが始まる。

先生:「歯間は一番太い歯間ブラシでシュッと。そしてこの凹みは一番細い歯間ブラシでかきだすような感じで…」

私の口の中は血だらけになった。
そして、手鏡の中で見ていた光景は、すっごく「難しい」。

言っていることは分かるけれど、難しいよ、それ…。

私:「この分岐部の凹みはどうしたら…」

先生:「これも細い歯間ブラシを中に入れて…、あ、けっこう奥まで入りますね…、ここも歯間ブラシで掃除してください。」

私:「この分岐部の穴の先はどうなってるのでしょうか?後ろに何か壁がある?それとも貫通している?歯の形状ってどうなってるんですか?」

先生:「貫通はおそらくしていないけれど…、逆からもけっこう歯間ブラシが入るのでこちらも掃除した方がいいですね。ここに骨はもうない状態です。」

分岐部は想像以上に奥まで深い穴があり、見ているだけで怖くなる。

私:「歯の根の先は、あとどのくらい歯茎に埋まってるんでしょうか?」

いまにも抜けそうな、歯の根が見えている状態が恐怖で、私は尋ねた。

先生:「6mmくらいです。」

私:「そのうち骨があるのは?」

先生:「3mmですね。骨から3mm上が引き締まった歯茎、ということです。」

3mm…、そんなほんの少しの支えだなんて…。

それでも、私の歯は全く動揺していなかった。

歯間の下の凹みは、肉眼で見るにはとても暗くて小さくて、先生のお手本の動作をわたしが「見えているか」というと、ほとんど見えていなかった。

先生は拡大鏡を使っているから見えているけれど、私には見えないよっ!
心の中でそう思いながら、まずは「見える化」しないと始まらないんだ、と実感した。

オペ中の写真

先生:「ちょっとこれまでの経緯を写真でまとめてきました。」

先生は、ノートPCを持って来ていた。
ちなみに、わたしとお揃いのPC、MacBook Airだった。

そこには、
・歯周外科前
・外科途中(開いて掃除をし終わった状態)
・歯周外科後(縫合した状態)
・現在の状態(前回写真を取ったとき)
の4枚が並べられていた。

オペする前と現在とでは、歯茎は3mmは退縮しているように見える。
歯茎の3mmは大きい。

先生:「これがオペの後で、このように元の歯茎よりも少し上のラインで縫合したんです。できるだけ歯茎を退縮させたくなかったので…。ですがその後歯茎が退縮してしまったのが結果となります。」

先生は「結果そうなってしまった」ということを残念がっていた。

私も残念だけれど、もうこの1ヶ月で、もうその覚悟はできていた。
そして完璧に心が回復したのは、その後の先生の一言だった。

先生:「正直、やってみて分かったことがたくさんありました。

同じ言葉を、何度か聞いている。

やってみなければ分からなかったんだ。

何でもそうだと思う。
やってみないと分からない。

やってみて分かったことは、私にもおおいにあったし、先生にもあったのであればそれでいい。

私が何かを失ったわけではなく、お互いに「何かを知った」のであれば、それはやっぱり意味があり価値のあることだった。

先生:「この歯周ポケットの状態は、抜歯になっても仕方がない状態で、論文でもそう言われていて、歯科界で一般的に言われている考え方だと、この状態をよくするには歯周外科に進むしかない状態でした。
アメリカなんかでは、これだとすぐに抜歯してインプラントに、という選択になるかもしれません。」

論文も歯科界もアメリカも私には関係ない。今が話しているのは「私自身の歯」の状態のことだ。
私の状態が、統計的に上位にこない事例であることもあるし、やっぱりひとそれぞれ違うはずだ。

…と私の気持ちを、先生は既に知っていた。
前回、私がレントゲンをつきつけて、「再生療法が適応ではなかったのか」ということを問いつめたからかもしれない。

問いつめるつもりはなかったのだけど…、そう思えるような行動をしたことを私は反省していた。

先生:「ただ、ルンルンさんが、この3年で症状が落ち着いていると感じられているので、積極的に外科(や抜歯やインプラント)を進めるよりも、メンテナンスで長くもたせる、という方がいいかもしれません。

私:「今回外科をした右下以外の、そのほかの箇所のことですよね。ほかの箇所は何もしない方がいいということですよね。
それから、最初に、全部削って先に仮歯にしてフルマウスセラミックの案があったじゃないですか。仮にその案を進めたとして、その場合は、今の状態は免れたのでしょうか?」

先生:「いえ、仮に全部仮歯にしても、同じ結果の可能性があります。全部仮歯して噛み合わせをよくするというのは、後々の「力のコントロール」の問題でいい影響を与えるとは思ったので案に出しましたが、歯茎に関しては、これもやってみないと分からない。」

やっぱり、全ては「やってみないと分からない」んだ。
ただ、フルマウスセラミックを進めていて、その過程で歯茎がこのような状態になっていたとしたら…、それこそ、失ったものが大きすぎる。今回とはレベルが違うくらいに大きい。

そう思うと、いい加減わたしもフルマウスセラミックの案は忘れた方がいいのだと思った。
(もうほとんど候補からは外しているんだけど…。往生際が悪い。)

先生:「あと、もう2週間様子を見て、この陥没してる部分がもう少し膨らんできてくれるかどうか…、様子を見ましょう。」

私はこれから、分岐部病変の歯磨きをマスターしなければならない。
新しい課題だった。

「見える化」するグッズたち

私は帰宅後、すぐに「見える化」するための道具を購入した。
眼鏡タイプの拡大鏡と据え置きミラータイプの拡大鏡!
どっちもLEDライトつき!

そして、極太歯間ブラシ
L(極太)やLL(超極太)は、普通のドラックストアでは売っていない…。

私は、ついつい歯磨きグッズを買ってしまうのが癖だった。
「イザ使おうと思ったらストックが切れている」という状態になりたくないため、自宅には数々の歯磨きグッズの在庫があった。
その買い過ぎを防ぐためにも、洗面台の壁に在庫を見えるように並べることにした。

お店屋さんみたいっ!

このお店屋さんのような洗面台に、新しい歯磨きグッヅが仲間入りする。

注文した翌日、すぐに拡大鏡と歯間ブラシが届いた。
この眼鏡タイプの拡大鏡は、1〜5倍までレンズを替えられる式だった。
箱を開けた瞬間、「かっこいい…」と興奮してしまった。

しかし!この眼鏡がピントを合わせるのがすごーーーく難しく小一時間ほど戯れて終了。

そして、ミラータイプは、すっごく使いやすい。
5倍に写る世界は、これまでとはまるで違う景色だった。

ライトをつけると口の中が照らされるので、奥歯も見やすいし、5倍で見ると、7番と8番の歯間の間までばっちり見えた。

わー、よく見える…。

見えすぎて怖いくらいだった。

(もちろん、毛穴とか全てのものが見えすぎる…)

今日の先生との歯磨きレッスンの最中先生がつぶやいていた数々の言葉が、一瞬にして分かってくる。
歯間の間の唾液の泡が邪魔だから風をかけるとか、そういうことの意味がすごくよく分かる。

こんな素晴らしいものがあったなんて….というくらいに、このミラーは気に入った。

考えてみれば、洗面台の鑑に写った口の中を5倍の眼鏡で見るより、肉眼で5倍のミラーを見た方が見やすいに決まっていた。

極太歯間ブラシで、よく見える「歯間」と「歯間の下の凹み」「分岐部の穴」を丁寧に磨いた。
ただ、やっぱり私のやり方が正しくないのか、血が出るまでは磨けない。
自分だと、力を加減してしまうのだろうか…。

私には、まだまだ練習が必要だった。

私は新しい目標を与えられ、そのための素晴らしい道具を手に入れ、前向きな気持ちになりつつあった。

そろそろ、仮歯のまま7ヶ月が過ぎている前歯を進めなければならない。

【セラミック矯正のその日の治療費】

(1回目)
診察料 1620円
合計 1620円

(2回目)
診察料 1620円
合計 1620円

【セラミック矯正のその日のやったこと】

・様子を見る

【セラミック矯正の次回の治療でやること】

・様子を見る?

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