今日はいよいよ決断の日。
「お話」だけの日も4回目となり、もうこれ以上話しを引きのばすのは、先生に申し訳がない。
この話だけで、5時間半の枠を費やしている…
(第十二話:2.5時間、第十四話:1.5時間、第十六話:1.5時間)
私は、前日に矯正の先生からセカンドオピニオンの結果をもらっており、心は決まりつつあった。
今日で「お話」は最後にしよう。
そう決めていた。
『本人が気づいていない問題』にどう対応するかの取るべきポジション
私:「先生、すでにこの話だけで5時間半使ってて、もう先生の時間を無駄に使うことは出来ないと思ってます。申し訳ないと思ってます。」
先生:「いえ、いいんですよ。話の順序とか可能性の話については、自分でも考えるところもいろいろありました。」
先生自身も、私への時間の使い方や説明の仕方にの中で、きっと、悩んで、反省する部分もあり、そして何かを得た実感があるのだと、私は思った。
先生とのこれまでの「お話」の中で、私が「この先生を気に入ったポイント」を、だんだんと分かってきた。
それは、『思っていることがこぼれてしまう』というところだった。
たとえば、悩みを持った人がいて、その悩みに対して直接的なアプローチで解決することが、一番話しが早く済む。
本人が一番に訴えている問題に対して解決策を提示するための最短距離を取ることだ。
では、本人が訴えている悩み以外に『プロだから気づいてしまった問題』をどうするか。
もちろん、その『問題』というのは、機能的な問題であれば指摘しなければならない。
それはプロとして当然。
ここでいう『問題』とは、そういう機能的な問題ではなく、『機能的には正常の範囲内での見た目の問題で本人が気づいていない問題』のことだ。
どうすべきかの道は2つある。
・本人に気づかせないように、そっとそのままにする
現状困っていなくて気づいていない問題であれば、それを指摘することで、急に気にしてしまうことになるかもしれないし、より深く悩むようになってしまうかもしれない。
だから、そのまま触れないようにすればいい。その問題の解決まで範囲が及ぶと、話は長くなってしまう。
・ズバッと指摘する
これは相性もあるけれど、うまくいけばそれはそれで誠実な対応に思える。
気づいていない問題点と気づいている問題点が繋がることで、本人が『理解すれば』深い信頼に繋がる。
ただ、その理解には時間がかかる。
この2つのどちらのスタイルも正しくて、どちらも、思いやりをもった対応だと思う。
そして、私の先生のスタイルは、そのどちらでもない…、『指摘はしないけれど、思いがこぼれている』という特徴があった。
これには、話をして行く中で、後から気づいた。
指摘するなら最初からすればいいのに…!とも思うし、クロージングしたいならそれは言わない方がいいのに…!とも思った。
思わず『こぼれている』から、そのカケラを、私は拾ってしまう。
「あれ?!それってどういうことなんだろう?」と考えてしまう。
欠片さえこぼさなければ、私はその問題に気づくことなく、話はサクサクと進んでいたはずだ。
でも、そんな『思いがこぼれてしまう』ところが、私は気に入っていたし、最初に『なんとなく信頼できそう』って思った最大のポイントだった。
それが明確になったのは、前話(十七話)で、矯正の先生との話しの最中だった。
矯正の先生は、『本人に気づかせないように、そっとそのままにする』タイプなんだと思った。
改善する手だてがないのに指摘することはしてはいけない。
改善できる手だてがあったとしても、それを本人が望んでいなければ、負担になるかもしれない。
それが、思いやりのある対応で、私は矯正の先生も信頼していた。
では、私の先生は…というと、『本人に気づかせないように、そっとそのままにする』姿勢っぽくもあるけれど、思いがこぼれているのだった。
なるほどな〜。いろいろな対応の仕方があり、とるべきポジションがある。
審美の問題は難しい。
難しいからこそ、興味深い。
私の歯の歴史を一緒に見て欲しい
その点を踏まえて、私は先生に伝えたいことがあった。
今日はきちんとコレを伝えよう、って思ってこの日を迎えた。
私:「まず、前提の話なんですけど。
歯医者さんを選ぶって、すごく大変なことなんです。歯医者さんっていっぱいありますよね。」
私は、さりげなく話し出した。
私:「これまで、いろんな歯医者さんに行って、いろいろな先生に出会ってきました。
そして、いま思うのは、もうこれ以上、私の歯を他の人に触らせたくないんです。ずっとひとりの人に見てもらいたいんです。
先生、私の歯を一生見てくれますか?」
私は、「一生」に心をこめていった。
(一生、って正直重い…)
でも私は、もう将来歯科めぐりをするのは嫌だったし、これまで「お話」してきたこをと無駄にしたくなかったし、この経緯を共有しているのは、世界中でたったひとり、この先生だった。
先生:「えぇと…、ちゃんと責任もって見ようと思っています。」
といいながら、先生は少々困っていて歯切れが悪かった。
先生:「ただ、今は勤務医なので、将来独立するとか…、そういう可能性もあって…。そういうときの対応を最初からお話してちゃんとここの院長にも説明しておかないと、とというのは、正直あります。でもうちは『患者さん第一』という思いでやっていますので、そのご希望に添えるよう、このケースではその点も事前に話をしておこうと思います…」
私:「たとえば先生が開業した際に、私がそこへ通うことに問題はありませんか?」
先生:「通常は、独立する際のそういうことはしたくないと思っているんですが(たぶん業界的に…?)、この件は事前に話を通しておこうと思います。」
私:「はい、ではお願いします。」
私の希望はとりあえずは受け入れられた。
いろいろな治療方法がある。
考え方がある。
正解はない。
それを選択するのは私自身で、それが間違っていなかったと信じたいから、そのときのベストな答えだったと思うために、私は、一生私の歯を見て欲しかった。
私は、それを伝えられて、気持ちがスッキリした。
まぁ、先生の回答が、なんとなく歯切れが悪かったのは、いろいろ事情があるのだろう。
だからもしそれが叶わなくても、そのときはそのときだ。
でも、先生に、私の歯の歴史を見てもらいたかった。
で、本題!最終決断の巻
私:「では本題にいきます。前回の話で、大分選択肢は絞られてきましたよね。『全部やるか』または『再生治療』のみをするか、ってことです。(いつの間にか『何もならない案』は消えているという…)
再生治療については、『骨を増やす』ってことなので、減っているものがない気がして『いいイメージ』なんですけど、違いますか?」
先生:「はい、再生治療はいいと思います。ただ、水平に骨が吸収されているので、すべての骨において有効ではないのでかなりチャレンジな部分もあります。」
私:「骨が再生されないかもしれない、ってことですよね。でも単にそれだけですよね。あぁ、残念、っていうだけで。失うものはないですよね。あ、歯茎は退縮しますよね、少しは。でもそれだけですよね。」
先生:「はい。それだけです。だから、再生治療は、うまくいなかない場合もある、ってことだけご理解いただかないと、ということです。」
私は、失うものがないのなら、チャレンジする価値があると思った。
歯を削ることに対しては、全然罪悪感が消えない。
でも、再生治療をして骨が再生されなかったとしても、罪悪感は全くない。
だったら、「やってみよう」、という気持ちに、すでに前回の話の中でなっていた。
私:「やっぱり、全部削って全部被せものにする、というのを受け入れられないんです。私から言い出しておいて申し訳ないんですけど。
考えている中で、だんだんと、『もったいない』という気持ちがどんどん強くなって、『全部やる』案はどうしても踏み出せないんです。
だから、再生治療を先にしたい、って思いました。それなら、まだ全ての選択肢を残せるので。」
私は、美しい28歯セラミックの模型を見ながらそう思った。
私:「それから、もうひとつ、じつは自分の中で、検討し足りない、と思ったことがあります。
前回、矯正の話をしましたよね。で、リスクが高いので選択肢から外しましたよね。でも、あれから家に帰って、本当に選択肢から外してよかったのだろうか?と思ってしまったんです。先生の頭の中では、充分に検討されたことだと思うんですけど、私の頭では検討がまだ足りない、っていう。」
先生:「はい。」
私:「それで、ちょうど前回の治療の後、子どもの付き添いで歯医者さんに行く用事があって、そのときにそこの先生に相談して検査だけしてもらったんです。本来であれば先生に先にご相談すべきなんですけど、あと1週間で決めないと、という気持ちの焦りもあって。
で、その検査の結果を持ってきたので見てもらえますか?」
検査の結果は、十七話の通りで、先生にとっては、すべて予想の範囲内のことだと、私は思っていた。
先生:「矯正の検査ですか?」
私:「はい。先生にとっては、特に目新しい情報はないと思います。ただ、私がまだやってない検査ってコレくらいで、とにかく全部検討してみたかったんです。ただそれだけです。それで、やっぱり、矯正はリスクが高いから選択肢から外して正解なんだと、自分の中で納得できました。」
先生:「この検査結果では、非抜歯を推奨になってますけど、もしも最初の(初診の)段階だったら抜歯矯正だと思うんですよね。」
私:「はい、そう思います。でもこれで全部検討したので、気持ちがはっきりしてきました。再生治療のみやりたいです。見た目のことは、『制限のある中でのベスト』で納得します。」
先生は、さっき、「話す順序について自分でも考えることがあった」と言っていた。
私が、悩んでいる理由も、どうしていまスッキリした気持ちでいるのかも、充分に理解してくれているのだと思えていた。
一生使える美しい人工物 vs ずっと自分の歯
私:「あともうひとつ、この決断で引っかかっていた点は、話の端々で先生から『将来インプラントにする場合に…』という話が出ましたよね。全部やっておけば、将来のインプラントもしやすいという。その意味は理解できます。今のままじゃインプラントできないですよね。
いま、『美しい人工の歯を手に入れる(その過程で再生治療もする)』、『再生治療のみして見た目は今のまま』、という2つの案があって、もし前者なら、将来インプラントになんてしたくないんですよ。美しい人口の歯を手に入れる案なら、『一生使える人工物であって欲しい』んです。だって、多くのモノを失って得た人口の歯なのだから。『将来インプラントにする場合に…』という言葉は、心に響かないんです。
でも、再生治療のみ行う案なら、目標が違います。一生自分の歯を残す、ということが目標になります。もちろん、その目標は叶わないかもしれません。でも、その案だったら、『将来インプラントにする場合に…』という言葉がすごく心に響いてくるしメリットに思えます。
でも、前者の、全部削ってセラミックにして、それでも将来インプラントにしなきゃならないなんて、かわいそすぎるんです。歯が。」
先生:「よく分かります。」
私:「それから、もったいない、という気持ちの中で、神経を残せるかというのも、気になりました。奥歯は大きく歯並びを変えるわけではないけど、でも、やはりデコボコはあるし、何カ所か、神経を取るかもしれないなー、と思うんです。
そうなったときに、はたして、骨を再生して噛み合わせを完璧にしたフルマウスセラミックが、今の噛み合わせのままと比べて、本当に歯の寿命を長くしてくれることなのかの確信が持てない。やってみないと分からないですよね。」
先生:「そうなんです…。おそらく、全部神経は残せると思うんですけど…。咬合高径を3mm下げてて、それに対し奥歯だと1mm、セラミックに必要なのが2mm…、で、計算上はどの歯も神経を残せるはず…ではあるんですけど…。でも絶対ではないですね。」
私:「やってみて、痛みが出ることがあるかもしれない。前歯は実際そうなりましたし。
あと、日々の歯磨きで、歯間ブラシで磨いているんですけど、あぁもう根が出てるな、って自分でも感じるんです。奥歯なので鏡で見ても見えないところですけど、でも、歯間ブラシの感覚で根に近いのが分かるんです。あと少し削ったら、神経に行きそう、ってイメージしちゃうんです。『絶対はない』んだったら、悪い方を考えちゃいます。」
先生:「すごくよく分かります。だから、この再生治療のみ、って案も妥当な案だと思います。」
私は、これ以上ないくらい考えて出した答えが、正しいと思えていた。
チャンレジケースの再生治療にワクワクする
私:「ところで、全部やる案で、最初に仮歯にしなきゃならないのはなんでですか?もしこれが、再生治療が先で、次に削って仮歯だったら、まだ受け入れやすかったんですけど。考える時間も稼げますし。先に削った方がよく見えるから、ということでしょうか?」
先生:「それもありますし、あとは力のコントロールがあります。骨に埋まっている歯根が短いので、そのままだと歯が動いてしまう可能性があります。そのリスクを減らすために、もし全部被せものにするんだったら、先に仮歯にして固定させたいんです。
でも、被せものにしないのだったら、先に再生治療もできますし、その場合は、内側をワイヤーで固定します。」
私:「なるほど、固定が必要なんですね。」
私は、「まずは仮歯」の治療の順序の意味が分かった。
私:「再生治療の箇所はどの歯ですか?全部ですか?」
先生:「歯周ポケットの数値とレントゲンで見て…、左下はしいていえばまだ骨の量が多いかな…というところで、これは歯茎を開いてみないと分からないんですけど、ほぼ全部です。ただ全部の箇所のうちの、効果のありそうなところ、というところです。」
私:「垂直に吸収されている部分、ということですよね。」
先生:「ほとんど水平に吸収さてれるので難しいんですけど…。ただ、チャレンジしてみる価値はあります。」
「チャレンジケース」と言われて、私はワクワクしていた。
うまくいくかどうか分からないことに挑戦する…、その響きが気に入っていた。
そして、「失うもの」がないなら、これはやるしかない。
失うものは
・歯茎の退縮
・治療費
・治療の痛み
・治療の時間
歯を削ることに比べたら、この失うものは話にならないくらいどうでもいいものに思えた。
私:「再生治療の順序はどういう順序ですか?全部一気にやるんですか?それとも部位ごとに分けるんですか?」
先生:「部位ごとに分けます。まずは一番難しい右上からやって…という風に分けます。一度にやると、身体に負担が大きいので、分けます。人によって反応も違うんですけどね。腫れやすい、とか。やはり、歯茎を切っていくので。」
私:「なるほど。一気にやったら痛いですよね。でも歯周病菌のことを考えたら、あまり時間を開けない方がいいんじゃないでしょうか?菌が移る前に一気にやっちゃった方がいいという。」
先生:「その考えもあります。だから、人によって、右側上下先がいいとか、上だけ先がいいとか、いろんなパターンがあります。
次回、どの歯に対して再生治療をするか調べさせてください。」
私:「調べる、とは何をするんですか?」
先生:「歯周ポケットです。もう一度よく見て、場合によっては麻酔して、どこまでやるかどうかの検査を1時間くらいかけてやります。」
初診のときに歯科衛生士さんが行った普通の歯周ポケットの検査のより細かいバージョンだろうか。
先生:「で、次回どこまで再生治療をするかを決めて、お見積もりを出します。」
私:「はい。」
前回の治療の最後にも、「次回お見積もりを…」と言われたのに、やっぱりそこまで進まなかった。
本日の1時間半は終了。
次回こそ…!
時間の使い方
この日の「お話」を含めて、「お話」だけで、ちょうど7時間を使っていた。
私は、「時間の使い方」について、いろいろと考えてしまうことがある。
今日のお話の中で、「患者さん第一」という言葉が出て来た。
一般的なサービスでいうと、「お客様第一」ということだ。
その言葉は、言葉通りの意味ではないと思っている。
私は経営者だから、その言葉についてよく考える。
『お客様第一』
その言葉には背景がある。
本当は、「自分の時間」が第一。
自分の時間に一番高い値段をつけなければならない。
第二は、「従業員の満足度」。
そして、第三に、「お客様」。
それは、自分の時間に一番高い値段をつけて、その上で働く人が満足してくれていて、それでいて初めてお客様へ「良いサービスを提供できる」ということだ。
お客様は第三。
決して「第一」ではない。
社長の時間は一番貴重。
一番高い値段がついている。
もちろん、お客様にも「予算」がある。
もしも予算が足りなかったら、「自分以外の人の時間を使う」とか「材料の質を下げる」とか、そういった対応をする必要はある。
そうしてでも、「社長の時間」は守られなければならない。
そしてもちろん、お客様より先に、働く人を満足させなければならない。
それは、どんな業種でも同じだと思う。
そうしないと、サービスは成り立たない。
それを私は知っているし、それをお客様へも理解してもらった上で、理解してくれるお客さまから選ばれたいと思っている。
だから、私は、こうして先生の時間を使っていることに対して、責任を感じていた。
まぁ、私が考えることではないけれど。
開業したら、まっさきに、時間の使い方に悩むだろう。
それは、どんなジャンルの起業でも、避けて通れない道なのだと思う。
私は、「お話」だけで過ぎていった7時間の中で、感じていた。
【セラミック矯正のその日の治療費】
0円
【セラミック矯正のその日のやったこと】
・お話
【セラミック矯正の次回の治療でやること】
再生治療の検査