第十四話:真実が明かされるとき…、見えない歯周病の敵と戦うこと

この日の予定は、第十三話の「全歯28歯セラミック計画」のお話の続きだった。

上の前歯2本を、ちょっと奥に入れたいな〜という気持ちではじめた審美歯科ライフが、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。

今日、28歯フルマウスをセラミックにした美しい模型が出来っていた。

全歯28歯セラミック!!!

出来上がった模型が目の前に出される。
そこには、ひとまわり小ぶりになった歯が綺麗に並んでいた。

先生:「これが、全部削った状態です。これで咬合高径も2mm下げたことで、前歯も短くなってます。ここまで変えれば、大きく変わってると思います。
咬合高径が変わったので、前歯の縦横のバランスも理想的な形になりました。」

私は、私の歯の模型を眺める。
今の状態の歯の模型と比べながら。

確かにこうして見ると綺麗だけれど、私の口の中にこの歯が入った状態の、「見た目」も「口の中が感じる感覚」も、全く想像がつかなかった。

うーーーん。

私:「むずかしいです…。私には、この歯が入った状態を想像できないです。見た目もだし、口の中の感覚もだし。これは先生にも想像できないですよね。私の口だし。
噛み合わせって、想像以上に繊細で、ほんのちょっとの変化がすごーく大きな変化に感じるんです。これは、今前歯の治療ですごく感じてます。だから、これがどうなるのか…。
見た目に関しても、やってみないと分からない…。私が満足できるかどうか。分からないからこそ、この選択ってギャンブルのようだと思うんです。その賭けに出られないのは、失うものが多るからなんです。

先生:「そうですよね。これは正直すごく難しい選択だと思います。
見た目でいうと、この状態までやっても改善できない部分があります。それは、上下の前突感です。
これは、今の状態より少しは下がっているんですけど、それでももっと…というのであれば、まずここまでやって、その後に4番を抜歯して後ろに下げることはできます。」

私:「矯正は歯周病があるから選択肢から外れましたよね?」

先生:「この状態まで、完璧な噛み合わせで、かつ骨を再生した状態だったら、5〜7番に負担がかからないので、可能になります。
前歯だけを矯正するのであれば、比較的スムーズです。今の奥歯の状態ではできない、ってことなので。ただ、時間はかかります。」

私:「なるほど。いま奥歯の噛み合わせを完璧にして、歯周病の再生治療をすれば、4番を抜歯して前歯を下げる選択肢が生まれる、と…。でもここまでやってもこれがゴールじゃないなんて…。

先生:「これは、やってみて、さらにもっと…と思った場合ですけどね。」

私:「では、全部被せもので完璧な歯並びと噛み合わせにして、それでも満足できなくて4番抜歯して前歯を矯正で下げて、ここまでで、もう打ち止めってことですかね。もうこれ以上の「完璧」はない、という。」

先生:「そうですね、あとは、セットバックという外科手術もあります。4番を抜歯して顎の骨自体を削って下げる、というのもあるんですけど。これだと、すぐに下がりますけどね。でも、矯正の方がいいと思いますけど…。
あとは、治療中の負担もかなりあると思ってください。治療中の中で、波があると思います。噛み合わせの変化、知覚過敏もあると思います。麻酔もたくさんしますし、治療時間もかかります。1ブロックだけでも4時間位かかりますので、こういう場合は静脈麻酔の方がいいかもしれません。
費用も、あと18本分…さらに280万くらいかかります。」

(すでに私は、200万以上かかっているというのに…!)※このまま今治療中の10本だけをセラミックにしたとして

敵は歯周ポケット底にある歯石だ!

私:「このフルマウスの治療の過程で、被せものをする前に歯周病の再生治療もやる、ってことですよね。やるなら歯周病の再生治療もやっといた方がいいってことですよね。後からは出来ないですもんね。」

先生:「はい、全部被せものにするなら、歯周病の治療はするべきですね。今の状態で骨吸収が進んでいる状態なので、骨を増やす治療をします。これはやってみてどのくらい骨が増えるかは人それぞれなんです。」

私:「この再生治療は、一度やってみて、骨が回復したとして、また再度同じ治療ができるんですか?たとえば、何度もやると薬が効かなくなる、とかそういうことはないんですか?」

先生:「はい、出来ます。ただ、1度目はうまく骨が出来てくれても、2回目は出来ない…ということもあります。もちろん2回とも骨が出来る場合もあります。
この治療は、歯に対して骨が垂直に溶けている場合に有効で、水平に溶けている場合は難しいです。
あとは、骨を再生しなくても、切除法(フラップ)という治療で、歯茎をめくり歯周ポケットの奥の歯石を取り除くという治療もあります。」

私:「被せものをすることと、歯周病の再生治療はセットで考える、ということですか?たとえば、このフルマウスで被せものをする案はやめたとして、再生治療だけをする、という選択はあるんでしょうか。」

先生:「はい、あります。そうなると、フラップで歯周ポケット底の歯石を取り除くのがいいのかもしれません。」

私:「これだけでも、今やっておいた方がいいということですか?」

先生:「歯周病の敵は、歯周ポケットの底にある歯石なんです。おそらく、3年前にSRPをして浅い部分の歯石は取れ、歯茎を退縮させて今コントロールができている状態なんですけど、歯周ポケット底にある歯石は、開いてみないと取れないんです。」

私:「じゃぁ、今SRPをもう一度やってもあまり意味がないんですかね。」

先生:「今は磨き残しもない状態なので、SRP以降の歯石が問題なわけではなく、もっと奥深くの部分が問題ですね。目で見て取るのと、感覚的に取るのでは全然違うんです。

私:「歯茎を開くだけの価値はある、ということですね。」

私は、「歯周病の敵」という言葉を反芻していた。
この敵は、「見えないところ」にある。
いくら歯磨きをしても、歯医者さんでクリーニングをしても、SRP(歯茎の中の深いところにあるお掃除)をしても、それでも届かないのが、「歯茎を切り開いてて歯周ポケットの一番底にある敵を退治する」ことでしか、この敵とは戦えない。
見えない敵…

敵が見えないからやっかいなのが歯周病だ。
今私は、どこも痛くない。
3年前の歯周内科治療で、私は歯茎の痛くない人生を知った。この経験は、人生が変わった経験だった。
そして今、いまどこも痛くないのに、私はまだ敵と戦わなければならないのか。
それが歯周病なのだろうか。

自覚症状がなく進行するから、サイレントキラーと呼ばれているのが歯周病だ。
でも、私の歯周病は、決して「サイレント」ではなかった。
24時間ずっと歯茎が痛くて痛くて仕方がなかった。10年間、歯茎が痛かった。
・あれはいったい何だったのだろうか。
・あの痛みが特別なものだったのだろうか。
そして、いま「自覚症状がない」歯周病が進行しているということなのだろうか。

私は、先日(十三話)からの話で、混乱していた。
論点がどんどんズレている。
見た目の話…、あと1mm前歯を短くしたいな〜という要望から、咬合高径の話になって、フルマウスセラミックの話が出て、歯周病の話になっている。
そしてそのどれも、すべてひとつながりになっている。
いま一番に考えるべきことは何なのか。

歯周病治療という観点でのフルマウス治療

先生:「このフルマウスの計画は、見た目の改善のためだったら、おすすめしないです。ただ、歯周病の観点から見ると、歯周病の治療もできてかつ見た目もよくできる、という提案ができます
じつは初診のときから、この奥歯の問題をどうしようかという点が頭にありました。
どうせやるならここまでできたら…という思いはありました。
ただ、前歯の見た目の改善をしたいってことでお越しで、歯周病は他院で治療をされていたので…。」

先生の口から真実が語られた瞬間だった。

(じゃぁ、言ってよ〜!!!)

私:「そうですよね、先日(第十三話)先生とお話させていただいて、再生治療とかインプラントの話が出たときに、点と点がつながったんです。
私がモヤモヤしていたのは、この先の治療のことではなく、今までにやった治療、つまりこの前歯10本の治療ががベストな選択だったのかな、って不安がずっとあったからなんです。
初診のとき、帰りがけに、「可能性を広げようと思うといろいろ広がります。奥歯とかインプラントとか。」と言われたのが、じつは頭に残っていて、今やっと、あぁこのことか!と納得がいっているんです。
だから、この話がすごくよくわかります。
最初だったら、たぶん分からなかった。」

先生:「こちらとしては、今の状態でゴールとしてもいいと思いますし、この模型のようにフルマウスの治療をゴールにしてもいいと思います。あとは選んでいただくだけ、ってことなんですが、正直難しいと思います。」

私:「選択するための判断材料が欲しい…。でも、既にメリットもデメリットも充分話していただきました。でももっと欲しい…。
歯周病のことだけでいうと、たとえば、この見た目を改善のために奥歯を削る話はなかったとして、それでも、再生治療だけでもやった方がいいのか…」

歯を削る罪悪感

私:「…。歯を削るって、もったいなくて。どうしてももったいないと思っちゃう。」

先生:「すごくよく分かります。だから難しい選択ですよね。今のままでもいいのかもしれない。」

私:「でも、このまま何もせずに歯周病が悪くなるんだったら、歯を削るのがもったいないという発想は捨てて、最後まで歯を残せるようにした方がいい、ってことなんでしょうか。」

先生:「そうですね。「抜歯」より「削る」ほうがずっといい。

私:「いまなら抜歯はまぬがれるかもしれない..と。でも、このままずっと大丈夫かもしれないんですよね。…という思いが交互にあります。10年後にどうなってるかどうかは分からないですもんね。」

先生:「正直、今すぐ抜歯対象じゃないので、このままコントロールを続けるのもいいと思います。
でも、将来奥歯がさらに前に倒れてくると、また前歯がフレアアウトしてくる可能性もあります。そうなると、以前の元の状態と同じお悩みを抱えることになるかもしれません。
この選択が難しいんです。」

私:「機能と見た目の改善を兼ねるなら、今がチャンスということですね。」

先生:「たとえば、今の状態でゴールとして、またその後フルマウスで、ということもできますけどね。その際は、前歯は壊しますけど。」

前歯の治療費200万超えがパーになる。
でも、さらにプラス300万の500万を今決断すれば、200万はパーにならない。

…と、言われてもなぁ〜。

私:「今、奥歯は安定していて、全くグラグラもしていないし、何にも困っていないんです。だから、奥歯の治療に前向きになれない、というのもあって。」

先生:「そうですよね。今の状態でかなり改善されていると思います。かつ将来のことは何ともいえませんしね…。」

私:「もったいない、という思いと、歯を削る「罪悪感」がすごくあって。前歯を削ったときも罪悪感がすごくあったんです。

先生:「あの神経を取ったときですね。」

よみがえる第九話の号泣事件

先生:「今他の患者さんで、歯周病を治したい、って方がいらっしゃって、その方がこのフルマウスの治療をされています。その方は、歯周病が悪い状態なので、削ることに受け入れられているように思います。
今◯◯さんは、見た目の改善、でお越しだから、罪悪感を感じてしまうのかもしれませんね。
私も、もし◯◯さんが、歯周病を治したい、というお気持ちが強ければ、やっぱり、このフルマウスを提案させていただくんですけどね。」

私:「歯周病は治したい…。もちろん、治したい。でも今現在困っていない。どこも痛くないんです。3年前とは革命的に違うんです。今の口の中って。」

先生:「だから罪悪感を感じる、ってのは理解できます。」

私:「3年前だったら、すぐに決断できたかもしれない。そのときは痛くて痛くて仕方がない状態で、ともかく何か少しでもよくなる方法を…と思ってたので。罪悪感は感じなかったです、きっと。」

見た目の問題と歯周病の問題が複雑に絡み合っている。

最善の方法が目の前にあったとしても、すぐに決断できるものではない。
失うものが多すぎるから。
私は、とても悔しかった。
「決断できない」ことが悔しかった。

判断するための材料は今日のところはここまでしか私に理解できない。

私はなぜいま、こんな「難しい選択」を強いられているのだろうか。
それは、私が、「全ての選択肢」を望んだからだ。

もしもこれで私が気に入らなかったらどうしよう…?!
冷静に考えると…、歯に500万以上かけるってどうかしてるのでは…?!

どうしようもない閉塞感

私は、どちらかというと「決断力がある」「リスクを恐れない」タイプだった。
これまでの人生で、大きな選択を迫られたその時、リスクを頭の中で計算し、それは「どうとでもなる」問題だと思った。
恐れることはない。飛び込めばいいだけだった。
もしも失敗しても、そんな失敗はいくらでも取り返せる。
そう思って、いつだって、「決断」してきたのに、私は、「怖くて踏み出せない」まま立ち止まっていた。
今回のリスクは失うものが多すぎる。
メリットがあったとしても、失うものに諦めがつかない。
お金の問題ではない。(お金も大きな問題だけれど、お金はこれからいくらでも稼げる。)
それより、歯を削る罪悪感だった。

こうすべき、と前に進む方法が分かっていても、それでも踏み出せない。
そんな「閉塞感」。
そんな自分にイライラする。
「自分のことなのに自分で決められない」という気持ちを初めて味わう。
思考停止。

私は、「思考停止」している人たちを、心の奥でバカにしにていた。
・なんで考えられないの?
・なんで決められないの?
・なんで行動できないの?
そんな風に思っていた。

歯科治療は、私の思考を「はじめて停止」させた。

 

先生:「もう一度お話のお時間を取りましょうか。あと、細菌検査をしてみますか?以前(3年前)にされた検査と同じものだと思うのですが、再発していないかも兼ねて。場合によっては、再度抗菌療法を行って様子を見る、というのもありますので。」

今日は、「お話」だけで1時間の予約が過ぎていた。

私は、この細菌検査をもう一度やってみたいと思っていた。
3年前、歯周病の治療をしたときには、スピロヘータという螺旋状の細菌が大きな原因だった。
この菌は今は居なくなっているはずだった。
私の口の中の感覚は、3年前と今では全く違う。
私はそう「確信」している。

けれど。
その確信が「真実」なのか、私は知りたかった。
私の思い過ごしかもしれない。私が3年前の口の中の感覚を忘れているのかもしれない。

私は真実を知りたい。
そして正しい方法を選びたい。

次回は細菌検査のみ。

【セラミック矯正のその日の治療費】

0円

【セラミック矯正のその日のやったこと】

・お話

【セラミック矯正の次回の治療でやること】

細菌検査

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